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連載小説集「からだ音」

あいた口

その絵を見た途端、胸のあたりからざわざわとしたお喋りみたいな音が聞こえてきた。

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月がふくらむ

甘酸っぱい匂いで、目が覚めた。つん、とする匂いだけれど、決して嫌ではなかった。

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背仲

高校二年の冬を、俺は今でも覚えている。

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バケツに放置された水は細菌に蝕まれ、時間の経過と共に腐っていく。

たった今私の体に含まれている水分も、放置された水のように心地よく腐っていくように感じる。

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掌編・短編

ソラノイチブ

時間を忘れて家事をするのが好きだ。そしてそのスイッチが入るのは、大抵底なし沼のような、終わりの見えない深夜だったりする。

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ふわり

その綺麗に作られた三角形を見た瞬間、息が止まった。

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星ふる夜

冷えたガラスの向こう側から、さらさらとした雨音が聞こえてくる。

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産む

昨夜、風呂上がりに保湿クリームを塗り忘れた私の肌は、普段よりも一段とぱりっとしている。

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アルコールレンズ

深夜の空気は冷たいくせに、やけにこびり付いてきて嫌いだ。
喉の内側や鼻腔、唇の裏側とか、あらゆるところにガムのように貼り付いては、鉛色の水みたいなものを体に注ぎ込んでくる。


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フィッシュメッシュ

仕事を辞めてきた。
辞めてきたと言っても、「辞める」という経験自体が初めてだったから、正式に辞められたのかどうかは定かではない。


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幻想

左肩に違和感があったから、右手の指でそっと撫でてみる。そこには少しの砂が付着していて、指先同士でこすり合わせると、しゃりしゃりと”聞こえない音”を立てる。


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今日、ようやく最後の段ボールを開けることにしたよ。


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落ちる

「ありがとうございました」

満面の笑みを浮かべながら、店を離れていくお客様の背後で深く頭を下げる。店舗の中でリピートされる流行りの洋楽は、あまり好きではない。

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靴下

あれはいつ頃のことだっけ。
ああ、そうそう。私がまだ若かった頃のことだ。

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コスプレカップル

原宿の煩さはやけに落ち着く。
私たちの弱さを、まるで匿っているみたいだ。

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